遺産分割における相続財産とは-その範囲と評価方法の基本-
相続財産とは具体的にどの範囲を指すのでしょうか?
借金も相続する
相続は基本的に亡くなった人の全ての権利・義務を継承するので、プラスの財産(積極財産と呼びます)だけでなく、借金や保証人のようなマイナスの財産(消極財産)も相続します。ここで注意しなければならないのは、借金などの消極財産は相続人どうしで分担を決めても、債権者は法定相続割合で各相続人に請求できるという点です。
借金を相続しないと話し合いで決めても‥
例えば亡くなった人がZ金融に1000万の借金があった場合で相続人が子4人(A,B,C,D)だったとすると、Z金融は子A〜Dにそれぞれ250万を直接請求できるのです。仮にZ金融からの借金は子Aが全額払うと話し合って決めたとしても、Aが夜逃げしてしまったり、Z金融がAの資力を信用しない等の理由で承認してくれなければ、B〜DはZ金融に250万を返済する義務があるのです(250万以上払う義務はありません)。借金の分担を決める場合はあらかじめ債権者に確認したり、担保を確保するなどの対策を考えておくべきでしょう。
遺産分割の対象となる財産
相続において、具体的に誰がどの財産を相続するか決めることを「遺産分割」といいます。遺産分割の対象となる主な財産を下表に挙げてみます。
積極財産 |
消極財産 |
||
---|---|---|---|
現金・定額貯金 |
財布等に残っている現金 定額郵便貯金 |
借金 |
住宅ローン、カードローン、 マイカーローンなど |
有価証券 |
株式、国債、投資信託など |
その他の債務 |
クレジットカードや公共料金の 支払い、買掛金、保証人など |
不動産 |
土地、建物、私道 |
税金 |
固定資産税、住民税の滞納など |
借地借家権 |
借地の権利、借家の権利 |
||
動産 |
自動車、貴金属宝石類、 家財道具など |
||
その他 |
貸金債権、売掛金、 知的財産権など |
- 普通預金等の可分債権は原則として遺産分割の対象になりませんが、相続分を調整する機能が高いため、相続人全員の合意があれば遺産分割の対象とすることも可能です。
遺産分割の対象とならない財産
以下に挙げる財産は原則として遺産分割の対象に含めません
祭祀財産 | 祭祀継承者のものとなります。評価額を遺産分割に反映させたりはしません |
---|---|
生命保険金 | 受取人のものになります。受取人が不特定の場合(単に「相続人」となっているなど)は遺産分割の対象となることがあります |
香典 | 葬儀費用を援助するための贈与として喪主のものとなります |
死亡退職金 | 会社等の規定で定められた受取人のものになりますが、規定がない場合は遺産分割の対象になることもあります |
弔慰金 | 香典または死亡退職金のどちらかに分類されます |
生前贈与 | 特別受益に該当しない小額の贈与、高校までの学費、日常の生活費など |
一身専属的な |
年金請求権、身元保証人の地位など一身専属的なものは相続されず消滅します |
※特別受益とは生前の贈与のうち特に額が大きく、そのままでは相続が著しく不平等になるようなものを指します。具体的には
- 結婚・養子縁組時における持参金や新居の贈与
- 生計の資本としての独立開業や住宅購入、留学の資金の贈与
などが対象になります
相続税の対象となる財産との違い
以上のように遺産分割の対象になる財産と、ならない財産があり、前者を対象に遺産分割協議をして、それぞれが相続する財産が決まります。
しかし、相続税の計算となると話がまた違ってきます。具体例としては下記のような財産の扱いが異なります。
- 生命保険金は相続税の計算に含める
- 3年以内の生前贈与は小額でも相続税の計算に含める
- 特別受益は相続税の計算に含めない
相続税の計算にはさまざまな控除やルールがあり、不思議な話ですが税理士によって税額が変わることもあるほど難しいものです。多額の相続税がかかるケースでは相続に詳しい税理士の助力を得ることも大切になります。
不動産の評価方法
遺産分割では現金や預金のように金額が明らかなものだけでなく、不動産や動産といった財産も金額に置き換えて協議します。特に不動産が重要です。この評価方法はある意味厳密な決まりはありません。基本は「時価」ですが、数十万円の費用をかけて不動産鑑定士に依頼するのは高額不動産について激しい争いになったときくらいでしょう。手間のかからない順番で言えば、固定資産評価額を使う(時価の7割程度といわれています)、相続税評価額(路線価など)を計算する(同8割程度)、近所の不動産屋さんに売り出し価格の査定をしてもらう(多少費用がかかりますが、まさしく時価!)、といった手法が使われています。
いつの評価額を使うか
いつの時点での評価額で話し合うかについては、原則として相続が開始したときの評価額を使います。ただし事情により何年も経ってから遺産分割をするような場合などは、合意により遺産分割時の評価額で協議することもできます。
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